摂食障害当事者と周囲の方が、今を生き抜いていくためにできること

摂食障害当事者と周囲の方が、今を生き抜いていくためにできること

新型コロナウイルス感染症の流行拡大以降、多くの人が精神的・経済的なストレスを感じながら過ごしています。

中でも、食行動のコントロールが難しい摂食障害当事者の方からは、さまざまなストレスが症状の悪化を招いているという声が多く寄せられました。

この記事では、摂食障害という疾患の実情と共に、当事者と周囲の方々が今を生き抜いていくための心がけや、ヒントをまとめています。

摂食障害とは

摂食障害とは、食行動に関する疾患です。体重に関するこだわりが強いことや、体型などが自己評価に重大な影響を及ぼすことも、この疾患の特徴と言えます。

摂食障害は大きく、排出型である過食症と、制限型である拒食症の2種類に分類されます。

過食症は、「むちゃぐい」とも呼ばれる過食行動を行うことや、栄養が吸収されて体重が増えることを恐れ、代償行為としておう吐や下剤の乱用などで食べたものを排出するといった行動が特徴となります。
一方、食事を過度に制限することで徹底した不食を行うのが拒食症と分類されます。

過食症、拒食症いずれもが本人の精神・身体の健康に大きな支障をきたし、低体重や栄養失調などから命の危険を伴うこともあります。

さらに、拒食症から過食症に移行するケースも60%から70%と高く、症状は固定されるものではありません。
また、摂食障害の症状はさまざまで、排出を伴わない過食や、口内で咀嚼(そしゃく)して吐き出す「チューイング」など、分類が難しい摂食障害も存在します。

どのような症状であっても、当事者には抑うつ気分や自己評価の低さなどが共通してみられ、二次的に精神疾患や別の依存症を発症してしまうこともあります。

たとえば、新型コロナウイルス感染症の流行にあたっては、経済的負担の増加を背景にしたクレプトマニア(万引き依存症)の併発が認められるケースが臨床現場でも見られるようです。

摂食障害と枯渇恐怖、回復のために必要なこと

摂食障害の当事者は、拒食や過食おう吐を繰り返すことにより、栄養が脳に十分に届かなくなります。すると脳が慢性的な飢餓状態になり、それが精神的な飢餓状態にも置き換えられていきます。

クレプトマニア(万引き依存症)を併発した摂食障害当事者の場合、脳と精神の飢餓状態により、「枯渇恐怖」という、減ることへの強い恐怖感が生まれやすくなります。
これは、たとえばお金が減ること、自宅にストックしていた消耗品など生活用品や、食べ物が切れてしまうことなどへの恐怖感を指します。通常の精神状態では説明できるものではない、病的な不安感や恐怖心です。

枯渇恐怖を覚える状態の当事者は、お金が減ることにも、食べ物が減ることにも、とても強い恐れを抱くようになります。

すると、尋常ではない量の食品を盗み、その食品が腐ってしまっても捨てずに部屋に溜め込んでは、さらに盗むという行為を続けるようになります。
これらの行為は、摂食障害により飢餓状態になってしまった脳が、お金や食品が減ることに対して「枯渇恐怖」を感じるようになり、引き起こされた症状のひとつです。

以上のように、食行動や排出などの行為がコントロールできないのは、摂食障害という「病」の症状であり、意志の弱さや甘えでは決してありません。

近年では、摂食障害を依存症の一種として捉える専門家も増えています。
回復プロセスも、他の依存症同様、仲間との繋がりが重要視されています。

自己治療としての摂食障害

摂食障害を抱える多くの方は、その症状によって耐えがたい苦しみを味わい、二次障害である精神疾患を発症することも少なくありません。
また、食行動をコントロールできない自分や、自身の体重・体型などを責めることで、食行動、あるいは嗜癖(しへき)・依存行動、抑うつ気分などを悪化させてしまう傾向にあります。

一方で、本人の抱えるさまざまなストレスや心の痛み、生きづらさ、むなしさやさびしさなどを、食行動を用いて「自己治療」している、という側面もあります。

そのように捉えてみると、摂食行動を、本人が自分の心を守りながらその環境を生き延びるために身につけた、サバイバルスキルのひとつとして考えることができます。
今の自分にとって、その行動が必要だからこそ発症している、とする考え方です。

回復を目指すための、仲間との繋がりを

摂食障害は、回復することのできる疾患です。

今は食行動をコントロールできずに苦しんでいる方々も、適切な治療や支援を受け、同じように苦しみながらも回復することのできた先ゆく仲間たちと繋がることで、自分を責めることはなくなるかもしれません。

アディクション(嗜癖・依存)の対義語はコネクション(繋がり)とも言われています。
摂食障害からの回復においても、自分が安全と感じることのできる居場所と繋がることは、治療の一環であるとも言えます。

下記に、国内で運営中の自助グループの開催情報を掲載します。
「自助グループ」とは、同じ立場である仲間と共に問題や、気持ちについて分かち合い、助けあいながら回復を目指していくための場所です。
現在はオンラインでも開催されているので、活用してみてください。

自助グループや福祉窓口など相談先情報

オーバーイーターズ・アノニマス JAPAN

オーバーイーターズ・アノニマス、通称「OA」は、AA(アルコホーリクス・アノニマス)を源流とした、アノニマス(匿名性を重視した、アメリカ発祥の大手自助グループ)系列の摂食障害版です。
「12ステップ」と呼ばれるプログラムを中心に、仲間と一緒に回復を目指して分かち合いを行います。

OA オーバーイーターズ・アノニマス JAPAN

摂食障害当事者向けのZoomミーティング「Room E」

依存症の予防教育、啓発などを主に行なっている特定非営利活動法人アスクのホームページでは、依存症予防教育アドバイザーが発足、運営している「Room」が紹介されています。
2020年11月1日には摂食障害当事者向けの「Room E」が誕生しました。

依存症オンラインルームに女性のルーム誕生! 特定非営利活動法人アスク

摂食障害のピアサポートグループ「NABA(ナバ)」

1987年に発足した、歴史のある自助グループです。ミーティング開催のほか、摂食障害を経験したスタッフたちによる電話相談も行なっています。

摂食障害の自助・ピアサポートグループ NABA(ナバ)

精神保健福祉センター

医療者との信頼関係というひとつの繋がりも、病気の予後に大きく影響すると言われています。なるべく早い段階で医療に繋がっておくことで、症状や気持ちの変動が、緩やかになるかもしれません。
どの病院に行けばよいかわからない場合は、お住まいの地域にある精神保健福祉センターや、保健所の窓口に相談してみてください。

全国の精神保健福祉センター一覧 メンタルヘルス 厚生労働省

保健所管轄区域案内

社会福祉協議会

病院を探したり、あちこち手続きに行く体力がなくて困っているときは、最寄りの社会福祉協議会に相談するのもひとつの方法です。
近年、「コミュニティソーシャルワーカー」と呼ばれる専門職の方を雇っている社会福祉協議会が増えてきました。必要な専門機関との連携や、経済面なども含めた支援、手続きなども一本化しながら支援してもらえるので、そういった福祉支援との繋がりを持っておくのもよいでしょう。

都道府県・指定都市社会福祉協議会のホームページ(リンク集)

その他、さまざまな領域のオンライン自助グループ情報

とどけるプロジェクトでも、開催中のオンライン自助グループについて記事にまとめ、一覧化しています。
摂食障害以外の問題にまつわるグループも多く存在しているため、自分の抱えるさまざまな問題について分かち合う場所が見つかるかもしれません。

周囲の方ができること

気持ちを否定せず、人格と病状を分けて考えること

摂食障害の当事者と関わるうえで重要なのは、「タフラブ(見守る愛)」と呼ばれる、併走型のサポートです。

まずは、本人の痩せたい気持ちを否定せず、理解することが大切です。
周囲が本人の健康を思うあまり、「食べないと不健康だよ」「充分やせているよ」などの声かけをするなど、やめさせようと働きかけると、かえって逆効果となってしまうことも考えられます。
反発や不信を招いたり、本人の失敗体験を増やして自信を奪い、結果的に病状を悪化させてしまう可能性があるためです。

そして、もっとも重要なのは、本人と病の症状を分けて考えることです。

摂食障害は、衝動や行動をコントロールできなくなる病です。やめたくてもやめられないことや、食べたさ・痩せたさへの渇望と衝動が抑えられないことは、決して甘えや意志の弱さではありません。

本人は、頭では「健康によくない」とわかっていても、どうしようもなく「痩せたい(食べたい)」と強迫的になっています。これは本人の病状であり、人格とは明確に切り離して接していく必要があります。

本人にとって、食行動は「自己治療」として、今を生き抜くため無自覚に頼っているものであり、する必要がなくなれば手放す場合もあります。
本人のペースに委ね、見守ることができると理想的です。食行動を起こしていない状態のときに、健康的な関わりを心がけながらコミュニケーションをとってみてください。

必要に応じたサポートをしながら、時には専門機関への相談を

食行動が一時的に止まっていたとしても、本人が抱えている生きづらさなどが解消されない限り、自傷行為、薬物・アルコール依存やギャンブル依存症など、別の嗜癖行動となって自己治療が表れる可能性があります。

そういった傾向がみられて問題が複雑化しそうなときや、本人が心身の不調を著しく損なっているような場合は、たとえ食行動が止まっていたとしても、専門機関に相談することが望ましいでしょう。
相手の問題を背負いすぎない程度に、できる範囲にとどめながら、必要に応じたサポートを心がけてみてください。

そのほか、「イネイブリング」と呼ばれる、本人が自分の問題に気づきにくくなってしまう周囲の行動や、「アイ(i)・メッセージ」という伝え方に関する心がけなどについては、下記の記事を参考にしてみてください。
依存症を軸とした記事ですが、本質的には摂食障害への対応と変わらないため、活用していただければ幸いです。

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