抑えられない怒りや衝動に苦しむ方へ ―セルフケアの方法と、相談機関

抑えられない怒りや衝動に苦しむ方へ ―セルフケアの方法と、相談機関

長引く新型コロナウイルス感染症による生活の変化や先の見えない不安に加え、梅雨や暑さの影響からも疲労やストレスが溜まりやすい状況となっています。心身の疲労は家族などの身近な人をはじめ、SNS上の関係においても、普段ならやり過ごせるようなことも許せなくなったりと、些細なことでも衝突を生みやすくなります。そして感情的になる頻度が増しているような場合、自分自身もその状態に疲弊することもあります。

そこで今回は、怒りや衝動が抑えられずに苦しんでいる方に向けて、怒りの背景を説明するとともに、セルフケアの方法と相談機関をご紹介します。

怒りの背景にあるもの

怒りは「二次感情」とも呼ばれており、怒りの根底には、不安、恐れ、恥や悲しみなどの、怒りのもととなる「一次感情」が存在することが一般的です。

一次感情から二次感情に変わるスピードは速く、多くの場合、この一次感情は無自覚です。また人によっては、自分の内部にある感情と向き合うことに対して、無意識のうちに抑制がかかっていることもあります。怒りのコントロールができずに苦しんでいる人の多くは、自分の感情そのものを適切にコントロールすることが難しい状態になっていると言えます。

もし、折を見て一次感情を見つけ、この感情を認めることができれば、怒りという強いエネルギーに振り回されることが防げるかもしれません。

時に、怒りに暴力が伴うこともあります。もちろん暴力は肯定できるものではありません。暴力、そして暴言も、それを受けた人の脳を変形させることが研究で明らかになっています。直接暴力を受けなくとも、例えば子どもが両親間のDVを見た場合でも、脳の損傷が生じます。そのような物理的な脳の損傷の結果、様々な精神的なトラブルに加え、視覚、聴覚、知能・学習能力などにも影響が生じていると言われています。

暴力や暴言が相手に与えるダメージの大きさを見ると、決して肯定はできません。しかし、そうした行動をとってしまう本人の立場に立つと、暴力や暴言は、自分が窮地に陥ったときの突発的な「防衛行為」として表出しているのだとも考えられます。

例えば、寂しさや後悔などのネガティブな一次感情を「恥ずかしい」感情だと捉えている人は、その恥ずかしい一次感情をひた隠すために相手を攻撃することがあります。また、そのような感情が伴う出来事に対して、自分が攻撃されていると感じやすくなるため、攻撃される前に相手を攻撃をすることで自分を守ろうとしたり、相手を自分より弱い立場に置く(力関係をコントロールする)ことで、自分への脅威を無くそうとする傾向があります。

そういった意味では、自らの一次感情を自覚して認めることができない限り、暴力を振るってしまう可能性は誰にでもあるものだと言えます。

中には、暴力を振るってしまった罪と向き合い、問題を認めることが難しい状況にある人もいます。

例えば、生育過程で自己肯定感が健全に育まれなかったなどの要因で自尊心が低い状態にある人は、自分の罪と向き合うことが、より自尊心を損なうことにつながり、自分は存在価値のない人間だと思ってしまう恐れがあります。

「自分は悪くない」と罪を否認したり、誰かに責任を転嫁したりする人は、そうすることで、自分の心をギリギリのところで守っているという場合もあるのです。このような状態では、自分のネガティブな一次感情を自分の努力だけで認めるというのは非常に難しいと言えます。

こうした場合に必要なのは、本来の自分と、その一次感情が否定されないような「心の安全が守られる居場所」に繋がることで、弱さをも受け入れられるという経験を積んでいくことかもしれません。安心感を得ながら自己肯定感を育んでいくことが、結果として暴力を減らすことにつながっていくと考えられます。

特に幼少期や思春期に受けた傷が癒されていない場合に、そのときの感情から過剰に防衛して、怒りに発展してしまうケースも多くみられます。しかし、心の奥に潜む過去の傷や、自己肯定感・自尊心の低さなども、そのような場所に繋がることで回復していくことができますので、もし自分の一次感情と向き合う中で自分の傷を見つけた場合には、一人で抱え込まずに、ぜひ周囲の人や相談機関に助けを求めてみてください

本記事の末尾に相談先などをリストアップしているので、ぜひ参考にしてください。

怒りのピークを乗り越えるためのセルフケア

衝動的に暴言を吐いてしまったり、暴力を振るってしまう可能性の高い「怒りのピーク」は、持続時間が6秒と言われています。この6秒間を意識的に乗り越えることで、無意識で行なってしまう衝動的な行動を減らせるかもしれません。そこで、まずはこの6秒間を乗り越えるためのセルフケアをご紹介します。

深呼吸

人は深い腹式呼吸をしながらでは上手に怒れません。そのため深呼吸は、比較的、怒りのピークの6秒間を乗り越えやすい方法です。まず、へその下に手を置き、呼吸に意識を向けながら、鼻から息を深く吸い、そして、口から6秒ほどかけて細く長く吐いていきます。
深い呼吸は自律神経が整いやすくもなりますので、可能であれば1~5分ほど、深呼吸を繰り返し行ってください。

2秒ほどかけて鼻から息を吸う
2秒ほどかけて鼻から息を吸う
6秒ほどかけて口から細く、長く息を吐く
6秒ほどかけて口から細く、長く息を吐く

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バタフライハグ

バタフライハグと呼ばれるセルフケアも、ネガティブな感情に対して有効と言われています。肩の力を抜いてリラックスし、胸の前で両腕をクロスさせ、胸から肩のあたりを左右交互に、トン、トン、トンとテンポ良く、ゆっくりと叩きます。赤ちゃんを寝かしつけたり、あやしたりするときのイメージで、自分を自分で抱きしめてあげてみてください。2分間ほど続けることで、少し気分が落ち着いてくるかもしれません。

胸から肩のあたりを交互にゆっくり叩く
胸から肩のあたりを交互にゆっくり叩く
胸から肩のあたりを交互にゆっくり叩く
胸から肩のあたりを交互にゆっくり叩く

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コーピング・マントラ

他にも、コーピング・マントラと呼ばれる方法で対処することもできそうです。マントラとは呪文という意味です。例えば「大丈夫、大丈夫」や、「仕方ない、なんとかなる」などの、イライラしたときに自分を落ち着けるためのポジティブな呪文を用意しておき、それを唱えます。怒りを抑えるためのスイッチを自分の中につくっていくイメージです。

タイムアウト

怒りの対象が人物であり、その人物が近くにいる場合には、自分が冷静になって落ち着いたことが明確になるまで、物理的な距離を取ることが必要になることもあります。互いに傷つけ合ってしまうような事態に発展することを避けるためにも、感情的になったときは一人になって、クールダウンできる環境へ身を置くことが望ましいです。

自分の怒りを点検する

自分の怒りを一次感情に分解して、客観的に見つめることで、怒りが収まる場合もあります。ここでは、怒りの温度計を用いた、怒りの点検作業をご紹介します。

上の図は、怒りの度合いを表したものです。図の下の薄水色部分が、怒りレベル0%で、上の赤色になるほど怒りが高まっていくイメージです。

この作業は、過去に怒りを感じた状況を思い出し、その時の怒りの度合いが、怒りの温度計のどのあたりだったか、そのときに自分が無意識にどのような行動をしてしまったかをリストアップするものです。自分がどのような状況下でどんな行動をとっているのかをモニタリングし、分析することで、無意識のうちに行なっていたことを意識上に引き上げていきます。

そうすることで自分が本当はどう感じていたのかが見えやすくなり、一次感情を拾い上げることに慣れていくかもしれません。できれば一次感情を拾い上げるところまで、この作業を通して行ってみてください。

また、どの程度の怒りの度合いで自分がどのような行動を取るのかを認識することにより、「これ以上イライラしたら部屋の物を壊しそうだから、散歩にでも行こう」「40%に達しそうだからシャワーでも浴びよう」のように、自分の機嫌を取るための対策も取りやすくなります。

下表は、怒りの点検の記入例です。

  • どんな状況だったか…子どもが夕飯を手でにぎり、食べてくれない
    • 怒りの度合い…40%くらい
    • そのとき自分が何をしたか…遊ばずに食べなさいと大声で怒鳴った
    • 一時感情はどうだったか…苦労して作ったものを食べてもらえなくて悲しかった
  • どんな状況だったか…高速道路のサービスエリアでトイレが混んでいた
    • 怒りの度合い…60%くらい
    • そのとき自分が何をしたか…貧乏ゆすりと舌打ちと口汚い文句を繰り返した
    • 一次感情はどうだったか…用を足したくて焦っていた。タイミングの悪さにもがっかりした
  • どんな状況だったか…半年かけて準備したプロジェクトAが突然会社都合で打ち切られた
    • 怒りの度合い…85%くらい
    • そのとき自分が何をしたか…記憶がなくなるまで酒を飲んだ。店にいた他の客に絡んで悪態をついたらしい
    • 一次感情はどうだったか…がんばっていたので本気で悔しかった、今までの努力が無に帰して虚しかった

一次感情を伝える

自分の一次感情に気づくことができたなら、その気持ちを怒りとして発散させる前に、一次感情を適切な方法で相手へと伝えてみましょう。

伝え方としては、相手を主体にした「ユー(You)メッセージ」ではなく、自分を主体にした「アイ(I)メッセージ」が有効です。

「なんで(あなたは)荷物が今日届くように注文しなかったんだ」「計画的でないあなたが悪い」のような、相手を主体として批判したり責めたりするような言い方を避け、「荷物が届かないと、私は、今日をどうやり過ごせばよいのかわからなくて困る」「計画を立てて、今日荷物が届くように注文してもらえたら、私は嬉しかった」のように、自分を主体にして、自分の率直な一次感情を言語化してみることが理想的です。

一次感情を吐露することは、決して恥ずかしいことではありません。自己開示することにより相手の信頼も得られやすく、そして、一次感情も受け入れてもらえるという安心を経験することで、感情的にならざるを得ない場面を減らしていくことができます。そして何より、自分の感情を自分で受け入れることは、自分の生き方の質を向上させることにも繋がります。

保ち続けてきた自分のスタイルを変えることは、簡単にできるものではないかもしれません。先述のとおり一人で抱え込まず、信頼できる仲間や専門家との関係性を通じて、少しずつ、自分の感情を伝え合う練習をしてみることをお勧めします。

怒りやDVに関する相談機関

ここまでは自分でできる対処法をご紹介しましたが、怒りや衝動に苦しんでいる方は、なるべく一人で抱え込まず、信頼できる人に話をしてみたり、専門プログラムに参加したりすることをおすすめします。なお、家族は相手を思うあまりについ責めるような言動をしてしまうこともあるので、一般的には、家族は適切な支援者になることは難しいと言われています。そのため、専門知識を有している専門機関や、同じ悩みをもつ人の集まりである自助グループにつながることが望ましいと言えます。自助グループは同じ立場の人と一緒に回復を目指すので孤立感も薄まり、さまざまな面での効果が期待できます。

しかし残念ながら、暴力を振るってしまう経験をしたことのある人――いわゆる「加害者」向けの支援というのは、今の日本ではまだ十分ではありません。その中で、数は少ないですが、ご紹介できる相談機関を以下に掲載します。(※脚注1 今回ご紹介する中には男性限定のサポート機関が含まれています。これらを紹介することで、怒りや衝動の悩みが男性のものであるかのような印象を与えてしまうことは本意ではありませんが、しかし少しでも多くの相談機関をご紹介したかったため、今回は取り上げることにしました。)

EA(イモーションズ・アノニマス)

言いっぱなし・聞きっぱなしで、匿名性と秘密が必ず守られる自助グループです。全国のミーティング会場で、感情コントロールに悩む仲間たちと分かち合いができます。「12ステップ」という自助グループでよく使われるプログラムに沿ってミーティングが行われます。

日本アンガーマネジメント協会

怒りの感情と付き合うためのアンガーマネジメントの講座を開催しています。

日本家族再生センター

家族をめぐるさまざまな問題に悩む人のために、カウンセリングや脱暴力ワークなどの、複合的な支援を行っています。

リエゾンちょうふ

DVをしているのではないかと悩んでいる方向けのプログラムやカウンセリングなどを開催しています。時々無料相談の機会もあります。

NPO法人ステップ

よりよい家庭生活を築くためのカウンセリング、夫婦塾、DVをやめたい・予防した方のためのプログラムなどを開催しています。

メンズサポートルーム大阪

家庭の中で、特に男性が暴力なしで暮らすことをめざす、男性による男性のためのサポートグループです。非暴力ワーク、男のぼやき・悩みを語る会、家族の会などが開催されています。

「男」悩みのホットライン

日本ではじめての男性による男性のための電話相談です。

子どもと関わる保護者の自分をいたわるヒント

子どもと関わる保護者の方は、下記の記事も参考になると思います。暮らしの中での心の疲れを知るヒント、心を守るためにできること、そして、しんどいときや困ったときの相談先や家庭向けサービスを掲載しています。

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