もくじ
新型コロナウイルス感染症と、依存症自助グループを取り巻く状況
依存症とは、さまざまなストレス・心の痛み・むなしさやさびしさなどを、特定の行動や物質を通して自己治療を試み、それが習慣・依存へと至るなかでコントロールが難しくなった状態を言います。依存症の当事者の方々は、治療や援助、そして仲間との支え合いによって、回復と社会復帰に向けた歩みを進めてきました。
依存症の回復において大きな役割を担うものの一つに、「自助グループ」という集まりがあります。依存症が「孤立の病」と言われることからも分かるように、依存症の当時者にとって孤立しないこと、仲間たちとつながることは非常に重要です。
これまで、特定の物質や行動に依存(アディクション)する方法しか選択できなかった依存症の当事者が、仲間とのつながり(コネクション)を取り戻す場として、「自助グループ」の存在はとても大きなものです。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大対策の影響を受けて公民館などの公共施設が閉鎖し、現在、自助グループの開催場所が失われています。また、執行猶予中の依存症当事者のための回復支援プログラムも、多くのところで中止されている状況です。自助グループや支援プログラムとのつながりが失われている状況は、依存症当事者たちが寂しさを埋めようと再び依存対象に手を伸ばすリスクを高めることにつながると言われています。
このような状況下で、依存症の当事者が「今日一日」を乗り越えるにはどうすればよいのか、当事者や医師、支援団体で、さまざまな試行錯誤が行われています。
この記事では、実際に集まることが難しい状況下における一つの方法として、「オンライン自助グループ」の取り組みをご紹介します。また、自分たちでオンラインミーティングを開催したいと考えている方に向けて、オンライン自助グループの運営アドバイスもお届けします。
オンライン専用の自助グループがスタート
依存症当事者の自助グループは、自治体の集会所などを利用した、いわゆるオフラインでのミーティングを中心とした活動を行ってきました。そのため、オンラインに対応した自助グループは、これまでほとんどありませんでした。わずかながら、有志で活動しているオンラインのグループもありますが、オフラインでのミーティングで顔見知りになった者同士が、再びオフラインでの開催が可能になるまでのつなぎとして、非公開で行っているケースがほとんどです。
これまで参加していた自助グループが、オフラインでの集まりを開けなくなった状況で、行き場をなくした依存症の当事者はどのようにつながりを維持していけばよいか。この課題に対して、オンライン専用の自助グループが代替手段の一つとなるかもしれません。
この記事では、現在、オンライン自助グループとして活動している「三森自助グループの森」をご紹介します。「三森自助グループの森」は、LINEの匿名グループチャットである「オープンチャット」機能を使った、オンライン専用の自助グループです。原則、誰でも参加できる公開ミーティングで、依存対象も限定していません。2020年4月9日現在、約150人の仲間が参加しています。オフラインでの自助グループが活動休止状態にあることを踏まえ、同グループは当面の間、毎日ミーティングを開催するとしました。聞くだけの参加も可能とのことです。
オンライン自助グループには、オフラインの自助グループ運営とはまた違った難しさがあります。対面ではないこと、デジタルメディアへのアクセスのしやすさに差があることなど、オンラインならではの問題が起こることも予想されます。しかし、孤独を分かち合える場がどこにもないよりは、たとえネットワーク越しであっても、仲間とのつながりを感じられる場があるほうが、スリップ(依存の再発)防止や回復にとって安全・安心だと言えるでしょう。
オンラインミーティングを開催するときのポイント
オンライン自助会を利用したいと考えたとき、一つには「三森自助グループの森」のようにすでに活動をしている会に参加する方法があります。しかし、Zoom、Skypeグループビデオ通話、LINEオープンチャット、Facebookグループなどを用いて、自分たちで新たにオンラインミーティングを始めるというのも、一つの手かもしれません。
今後、オンライン自助グループが増えるとすれば、従来の自助グループの伝統をオンラインにも取り入れられていくことのもあれば、オンラインだからこそ可能になる運営スタイルや新たな知見が見出されることも出てくるでしょう。試行錯誤を重ねながら、オンラインならではの自助グループが生まれることが期待されます。
オンラインでのミーティングは大きく、顔見知りだけで行う非公開ミーティングと、さまざまな人の参加を受け入れる公開ミーティングに分けられます。下記表で示すように、それぞれにメリット・デメリットがありますが、一人ひとりが自由に選べる環境であることが望ましいでしょう。参加者の心理的な安全のためには、まずは非公開で、すでにオフラインでつながりのある人同士で小さく始め、慣れてきたら併行して「この指とまれ」スタイルの公開ミーティングを開設。最終的には両者を一つにまとめていく、というやり方がおすすめです。
表 非公開ミーティングと公開ミーティングのメリットとデメリットの例
非公開ミーティング | 公開ミーティング | |
メリット | ・知り合い同士なので運営・管理がしやすい ・親密度・信頼度が上がりやすい ・プライバシーが守れられやすい | ・より多くの当事者の居場所になり得る ・幅広い背景を持つ参加者の話を聞くことで、多くの気づきが得られる ・家族や支援者が参加できるミーティングも作れる |
デメリット | ・知り合い以外の、行き場をなくした当事者の受け皿になれない ・「新しい仲間」が生まれない ・親密度が上がりすぎると、他人と自分の境界が曖昧になりやすい | ・冷やかし目的の参加があり得る ・慎重なルール設定およびそれを浸透させるために、より大きな努力が必要 ・プライバシーが守られるかの懸念がある |
オンラインミーティングを始める際は、次のポイントに注意すると安心です。
- ミーティング主催者はホストとして仕切る必要はなく、分かち合いの場の提供者という認識を持つ。主催者の責任を限定的にしておく。
- 必ずしも、自助グループ設立者・ミーティング主催者が当事者である必要はない。やりたい人が中心となって進めればよいが、会の運営もミーティングの主催も、複数人のチームで確認しながら進めるほうがよい。
- 12ステッププログラムなどを用いた自助グループ経験者を運営メンバーに含める。
- 信頼できる医療関係者(医師・看護師・心理士など)から定期的に意見を求める。
- 薬物の売買など違法な行為が行われないよう、参加者間での連絡や、グループ内コミュニケーションツールへの投稿にルールを設定する。
- 希死念慮を思わせるメッセージがあった場合の対応を、あらかじめ慎重に検討しておく(※脚注1)。
※脚注1 発言者が責められないことを保証することを伝えるとともに、「その考えや気持ちに対してこれほどに無力であること」の確認や、「それでも次のミーティングでも待っていることを伝えることはできる」などの確認が必要だと思われます。
さらに、いのちの電話や#いのちSOSのほか、自殺相談ダイヤル(東京都)をはじめとする各都道府県に設置されている電話相談窓口など、無料の社会資源についての情報提供も必要です。
先に紹介した「三森自助グループの森」を運営する三森みさ氏(ASK依存症予防教育アドバイザー)にご協力いただき、オンラインミーティングの運営アドバイスをまとめた記事を作成しました。以下の記事が、オンラインでの自助グループ運営やミーティングの開催に対する不安の軽減に、少しでも役立つことを願っています。ぜひご覧ください。
オンライン自助グループの開催情報を集めています
スワローポケットでは、オンラインで開催している自助グループについての情報を集めています。情報をお持ちの方、オンライン自助グループをスタートさせたという方がいらっしゃいましたら、ぜひ「スワローポケット」までご連絡ください。今後増えていくであろう、さまざまなオンライン自助グループの情報を集約・整理してご紹介していきます。
現時点でお寄せいただいた情報は、下記の「依存症等の当事者または家族向け、オンライン自助グループの開催情報」ページで公開しております(月に1~2回を目安に更新予定)。引き続きご協力をお願いいたします。