もくじ
感染対策だけでなく、孤立のリスクにも目を向ける
感染対策は、重症化リスクが高いとされる高齢者やその家族にとって深刻な問題です。
しかし一方で、当事者の行動を過度に制限をする感染対策には、他人との関係が断ち切られ、当事者及び家族の「精神的な負担」や「社会的孤立」につながるリスクもあります。
精神的な負担
人との交流がない期間が長く続くと
- 気持ちがふさぎがちになる
- 何をするにも不安を感じやすくなる
- 無気力になる
といった精神状態に陥りやすくなることがあります。このような状態になると、自発的に外界と接する意志が弱くなり、結果として精神状態のさらなる悪化を引き起こすこともあります。
社会的孤立
社会的孤立にはいくつか異なる定義が存在しますが、一般的には「家族やコミュニティとほとんど接触がないという客観的な状態」(※脚注1)を指します。
接触の頻度としては、「同居者以外との対面・非対面交流が週に1回未満という状態までがその後の要介護状態や認知症と関連」(※脚注2)することが分かっており、またこのような状態になると、本人の抱える問題や家庭内の問題が深刻化したときに周囲がなかなか気付けず、問題がさらに深刻化しかねません。
特に介護を要する高齢者と同居をしている家族には、介護が関わる事柄について「家庭内に留めておきたい」という思いを持つ人も少なくなく、社会的孤立を生みやすい場合もあります。熱心に介護をしようとするあまり、本人の変化や自分たちの置かれている状況に気付きづらい場合もあるのです。
もちろん、家庭内の問題に配慮なく第三者が踏み込むことは望ましくありません。問題の深刻化を防ぐ観点から考えると、バランスが難しいところです。
しかし少なくとも、過剰な感染対策により感染とは別の問題が生じる可能性があることは、心に留めておいたほうがよいでしょう。
※脚注1 Townsend P. The Family Life of Old People: An Inquiry in East London. Harmondsworth, UK: Penguin Books, 1963; 188-205
※脚注2 斉藤雅茂,近藤克則,尾島俊之,他.健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討:10年間の AGES コホートより.日本公衆衛生雑誌 2015; 62(3): 95-105
介護を「苦しいもの」にしないために
適度・適切な感染対策が望ましいとは分かっていても、特に介護は一人ひとり必要なケアが異なるため、感染対策と介護のベストな両立の道を見つけるのは難しいものです。
手探り状態が長く続き、苦しい思いをする家族も多いかもしれません。「自分が我慢すればいい」と、抱え込んでしまう人も少なくありません。
深刻な状況に陥ってしまう前に、専門的な知識を持つ第三者への相談を検討してみるとよいでしょう。工夫次第では、介護を必要とする当事者と家族にとって負担の少ない暮らしを実現することが可能です。
具体的には、ケアマネジャーや公的な介護サービスの活用をおすすめします。「当事者と家族、双方にとって心地よい暮らし方」についてイメージを持ち、その実現のために、家族と第三者がそれぞれどこからどこまで介護を担うのか、サポートする第三者も交えて話し合いの機会を持つとよいでしょう。
介護にまつわる相談をしたいとき
介護について第三者からのサポートを受けたい場合、全国に5,000カ所以上設置されている「地域包括支援センター」に相談してみましょう。
これは、保健師や社会福祉士といった健康・福祉に関わる専門職の人びとが常駐し、地域住民の暮らしを支えるために運営されている施設です。
「こんな状態で相談に行ってもよいものだろうか」「今はそこまで困っているわけではないけれど……」とためらいを覚える方もいるかもしれません。
しかし地域包括支援センターは、「今の困りごとに対処する」だけでなく、「これから起こるかもしれない困りごとの対策を考える」場でもあります。近い未来に備えた環境づくりをするためにも、気軽に門を叩いてみましょう。
厚生労働省が運営している、全国の介護施設や地域包括支援センターを検索できるページです。お住まいの都道府県から検索が可能なので、地域包括支援センターの利用を検討する際にご活用ください。
COVID-19感染拡大下における暮らしで大切にしたいこと
その人がその人らしく生きていくうえで、「自分らしい暮らし」をおくることはとても大切です。しかし今は、誰もがそうした暮らしを制限されやすい状況下にあります。
「今は我慢しなくては」という気持ちが心を締めつけ、その結果、自分や他人に無理な我慢を強いてしまうこともあります。
そうならないためにも、「このあり方は自分らしいだろうか?」という疑問を持つことを忘れないでください。それが、不安や孤立を防ぐことにもつながります。
もし、どうしても外出や交流などに一定の制限を設けなくてはならない場合は、たとえば、「好きなことを毎日継続する」「決まった時間に散歩や植物の水やりをする」など、マイペースを見失わないような工夫を生活に取り入れるとよいでしょう。
制限のある状況下でも、すべての人が「自分らしい暮らし」をおくれることを願っています。