もくじ
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、長時間・長期間を自宅で過ごさざるを得ない人が増えています。自宅生活を少しでも楽しむ策として、自宅でのオンライン飲み会や、ゲーム、SNS上の交流などの機会が増えている方も多くいらっしゃると思います。
退屈さやさびしさを埋めるために飲酒やゲーム等を行うことは、現在のような抑圧された状況下では仕方のないことかもしれません。しかし、飲酒量やゲーム時間などの増加は、時として健康上および社会生活上に深刻な問題を及ぼすこともありますので、注意が必要です。
今回は、家族や友人等の身近な人の飲酒量や、ゲーム・インターネット時間の増加に不安を感じている方に向けて、関わり方のポイントをお伝えします。
当面の目標は、リスクを踏まえて「ほどほどに」楽しむこと
飲酒量やゲーム等の時間の増加に対して漠然とした不安がある場合、当面は、なんらかの制限やルールを作り、「ほどほどに」「安全に」楽しむことが、ひとまずの目標となります。
厚生労働省の「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」では、「通常のアルコール代謝能を有する日本人」においては、1日平均純アルコールで20g程度が「節度ある適度な飲酒」とされています。
アルコール飲料に換算した分量は下表に示すとおりですが、ストロング系缶チューハイでは350ml缶1本で既に基準量を超えることになるので注意が必要です。なお、女性、アルコール代謝能力の低い方、65歳以上の高齢者は、これより少ない量が適量とされ、依存症者の場合は適切な支援のもとに完全断酒が望ましいとされています。飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものでもありません。
- ビール
- 想定アルコール度数:5%
- 20g相当の分量:500ml(中ビン1本)
- 日本酒
- 想定アルコール度数:15%
- 20g相当の分量:170ml(1合弱)
- ワイン
- 想定アルコール度数:12%
- 20g相当の分量:210ml(グラス2杯弱)
- 缶チューハイ
- 想定アルコール度数:5%
- 20g相当の分量:500ml(ロング缶1本)
- ストロング系缶チューハイ
- 想定アルコール度数:9%
- 20g相当の分量:280ml(350ml缶の8割)
- 焼酎
- 想定アルコール度数:25%
- 20g相当の分量:100ml(0.6合)
- ウイスキー
- 想定アルコール度数:43%
- 20g相当の分量:60ml(ダブル1杯)
ゲームやインターネットはその誕生からまだ歴史が浅く、医学的根拠に基づいた利用ガイドラインはまだ存在していません。そのため現状では、それぞれの家庭の状況に応じて、本人が達成可能な適切なルールを設定していく必要があります。プレイ時間の取り決めだけでなく、勉強を終えた報酬としてゲームや動画を見てもよいことにしたり、自室ではなくリビングでゲームをしてもらうなど、さまざまな方法が考えられます。
相手が子どもの場合は、保護者がゲーム機やソフト等を貸し出す形にし、ルールに従わない場合は返却してもらう約束をしておくと、過剰な罰による反発を招く可能性が減少します。
また、保護者も一緒に参加してゲームを通じた会話を増やすことや、運動習慣を加えることなども、対策の一例となるかもしれません。
何らかの制限やルールを作る際は、後述の「相手への接し方」の点に気を配りながら、相手の納得が得られるよう話し合い、同意のもとで決めるようにしてください。
また、相手の飲酒等に不安を感じているあなた自身が「(その行為は)止めないが、決して応援もしない」という立場を明確にすることも大切です。例えば、お酒の買い置きやおつまみ作りは行わない、自室でゲームや動画視聴をしているときに食事を運んでいかない、飲酒またはゲーム等を通じて散らかしたものは片付けてあげないなどの内容を伝え、実践するようにしてみてください。
ルールに関して、「そんな約束はしていない」といった話になり、それにより対立することも多くあるため、決めたルールについては最終的に書面化し、見える場所に貼り出しておくことも大切です。
なお、すでにコントロールを喪失し、ルールを守れない状態になっている場合は、依存症が疑われます。その際は医療に介入してもらいながら、アルコールやゲームといった依存対象を「完全に断つ」という選択肢も検討する必要が出てきます。
依存症とは
依存症とは、特定の物質、行為、関係などに対して、自分でコントロールができなくなり、やめたくてもやめられない状態になってしまう病気です。脳の回路がそのように変化した結果であって、本人の性格や意思の弱さによるものではありませんし、周囲の努力不足などによるものでもありません。
また、家族など周囲にいる人が翻弄されて疲弊するケースが多く、依存症は本人だけでなく周囲をも巻き込むこと、そして、「否認の病」とも呼ばれているように、本人が自らの問題を認めることが困難なことが特徴とされています。本人や周りの人たちが苦しんでいる状況に対して、正しい知識をもって適切に対応していくことが大切です。
依存問題に悩む本人と家族等の周囲の人だけでこの病気をどうにかしようとすると、度重なる衝突で消耗したり、依存がさらに進んだりと悪循環に陥りやすいので、依存症が疑われる場合にはなるべく早期に専門の医療機関などに相談し、治療に繋げる必要があります。
なお、依存症は生育歴や生きづらさによらず、条件さえそろえば誰でもなる可能性がある病気です。例えばアルコールなら飲酒量に比例してリスクが上がると言われており、日本酒換算で3〜4合を365日飲み続けていれば、男性の場合だと10年、女性の場合だと6年で誰でも依存症、もしくはアルコールによる深刻な内臓障害のいずれかになると言われています。
心配な相手への接し方
大切な方の飲酒やゲーム等の量や頻度が増えるにつれ、相手のことを思って伝えたいことも増えてくるかもしれません。しかし、お酒が入って酔っているとき、ゲーム等に夢中になっているときは、放っておく方がよいでしょう。少なくとも、叱責や説教などは行わないようにしましょう。相手が邪魔されたと感じ、聞く耳を持たなくなったり、かえって興奮してトラブルに発展しやすくなります。
しらふのとき、ゲーム等をしていないときで、相手が落ち着いているときを選んで、アルコールやゲーム等のことを話題にしましょう。
その際、責めるような批判、あるいは、「~しないで」「~しなさい」と指図するような言い方は、相手の反発を招き、言葉が相手の胸に届かなくなります。むしろ「私は、あなたが飲みすぎて健康を損なうのではないかと心配しているの」というように、自分の気持ちを率直に伝えるのがよいでしょう。伝え方としては、相手を主体にした「ユー(You)メッセージ」ではなく、自分を主体にした「アイ(I)メッセージ」とすることを心がけてみてください。
また、お酒を飲んでいないとき、ゲーム等をしていないときに、「報酬」を与えることも大切です。心配や不安のあまり、その行為にばかり目が向いて、相手のできていることやがんばっていることに意識が向きにくいかもしれません。しかし、ぜひ、相手が少しでも出来たこと、がんばったことにも注目し、肯定的に関わってみてください。一例ですが、「しらふのあなたとこんな風にお茶を飲みながらおしゃべりするのって、(私は)すごく楽しいし、うれしい」といった言葉かけが考えられます。
相手の問題を背負わない
飲酒量やゲーム等の時間の増加に関連して、家族等の身近な人に何らかの問題が生じた際、その人のことを思いやって問題を助けたりフォローしたりすることがあるかもしれません。
例えば、飲酒やゲーム等が原因で仕事上の約束をすっぽかした時に、家族が代わって謝罪するような場合です。「家族なのでフォローすることが当たり前」と思われる方もいるかもしれませんが、これは、問題を起こしている当人が問題に直面する機会を奪っていることにもなります。
相手が「自分の問題」に気づくためには、自分の飲酒やゲーム等で起こしたネガティブな結果を自分で自覚できる状況が必要です。
お酒やゲーム等をやめさせるために、対象物を捨てる、行動を監視する、説教をするなどの行為も、責任を肩代わりする行為に当たります。周りの人がこのような行為を続けることで、自分で自分の問題に向き合うことが難しくなると言われています。
このような、相手の問題を気づきにくくなるように助けてしまっている行為を「イネイブリング」といいます。イネイブリングには主に下記のような行動があり、いずれも相手の問題行為を助長する可能性があると言われています。
- 問題行為をコントロールしようとする(怒る、説教をする、エビデンスを提示する、監視する、対象物を捨てる、隠す、など)
- 問題の理由をコントロールしようとする(機嫌を取る、慰める、ストレスを軽減するよう働きかける、生活を変えさせる、など)
- 問題の結果をコントロールしようとする(介抱する、会社や友人などに言い訳をしてあげる、迷惑をかけた人に謝罪する、借金の肩代わりをする、など)
飲酒やゲーム等のコントロールが難しくなっている人が身近にいる場合は、このようなイネイブリングの知識を持ち、相手の問題と自分との間に明確な境界線を引き、相手の問題を背負いすぎないようにすることが重要です。
相手を大切に思う気持ちがあっても、相手の問題を背負い込んだり、相手の問題を自分でコントロールしようとすることに自分の人生を費やしすぎるのは、双方にとって望ましいことではありません。相手の問題は相手に返し、問題が大きく感じられるときほど、自分の趣味に熱中したり、友人とのおしゃべりや美味しい食事などの楽しい時間を過ごしたりして、意識して自分の人生を優先するようにしてみてください。
もし一人で抱えるのが苦しいときは、ぜひ、専門の医療機関や保健センター、あるいは依存症者の家族が集まる家族会などの自助グループに連絡をしてください。
自助グループは、同じ立場の人たちと出会い、情報を共有し合い、助け合える場所です。「オープン・ミーティング」と呼ばれる、家族など周囲の方も参加可能な形式もあります。現在は新型コロナウイルス感染症の流行を受けて対面での会合はほとんど中止されていますが、オンラインでの開催も増えてきています。次のリンク先にオンライン自助グループの開催情報をまとめていますので、よろしければご参考ください。