やさしい日本語ってなんだろう? 日本語に不慣れな方や医療通訳者にとどけるために(とどけるプロジェクト活動報告会・交流会より)

やさしい日本語ってなんだろう? 日本語に不慣れな方や医療通訳者にとどけるために(とどけるプロジェクト活動報告会・交流会より)

本ページの記事は、2020年4月〜2021年3月にかけて「とどけるプロジェクト」で制作された記事です。
古い情報が含まれている可能性がありますのでご了承ください。

新型コロナウイルス感染症に関するさまざまな不安や困りごとのある方に、必要なサポートを届けていく「とどけるプロジェクト」(以下、「とどプロ」)では、毎月1回の頻度で活動報告会・交流会を開催しています。

2020年10月4日に開催された会では、「やさしい日本語」のチームから、鈴木美乃里(すずきみのり)さん、増本朱華(ますもとあやか)さん、益田充(ますだみつる)さんの3名にお越しいただき、坪沼敬広(つぼぬまたかひろ)さんのインタビューで、活動内容やメンバーの思いを伺いました。

この記事では、会で話されたことを通じて、「やさしい日本語」の取り組みについてご紹介します。

「やさしい日本語」ってなんだろう?

「やさしい日本語」とは、外国籍の人や外国にルーツを持つ人など、日本語に不慣れな人でも読みやすい・理解しやすい形式・表現で書かれた日本語です。

必ずしも用語をかみ砕いて分かりやすく説明すればよいものでもありません。たとえば、在留資格の申請について、「在留資格は、日本で就学や就労をしたい人が申請する必要のある資格です。窓口で申請してください」と伝えたとしても、窓口に行くステップまでに必要のない情報が含まれ、かえって理解が難しくなる可能性があります。この場合は、「『在留資格』という名前があります。窓口に行ってください」のように伝えることが必要になります。

とどプロ(現スワローポケット)では、日本語の表現や文章に不慣れな方でも必要なサポートを受けやすいよう、外国人留学生の在留資格の相談窓口の案内や、日本在住者が受けられる生活支援など、困りごと別の「やさしい日本語」記事を公開しています。

「やさしい日本語」チームのメンバー紹介

鈴木美乃里さん

株式会社LITALICOのLITALICOワークスに勤務
鈴木美乃里(すずきみのり)

鈴木美乃里さん: 私の役割は、クレジットでは「ライター」となっていますが、記事の発案担当です。どういうネタを届ける必要がありそうかというリサーチから、増本朱華さんに監修いただくまでのラフを作っています。

日本で働く外国籍の方や外国にルーツを持つ方は、新型コロナウイルス感染症拡大の前から、安心・安全でない労働環境で働かざるを得なかったり、経済的に余裕がなかったりといった状況にある方も少なくありません。日本語が不慣れであるゆえに不利益を被りやすい立場にもあり、たとえば、外国籍の労働者が在留資格を申請する場合に、仲介業者が法外な価格で手続きする事例も知っています。

記事のネタは、最初は仕事や給付金がメインでしたが、これからは、新型コロナウイルス感染症以前からある社会保障の制度や、権利などの基本的なものを、仲介業者を挟まずに自分たちで当たれるように、お伝えしていきたいと思っています。

日本での申請手続きは、外国にルーツがある方だけでなく、日本人でも難しいところがあります。知的に遅れのある方や、精神的にしんどい状態で伝えることに思考が回らないこともあります。やさしい日本語だけでなく、イラストやデザインの力も有効です。イラストが入ることで、記事としてのクオリティが、ぐっと上がりました。今日は参加されていませんが、やさしい日本語チームには、イラストの担当で岡田めぐみさん、そして編集担当の藤坂鹿さんがいらっしゃいます。今後も活動するうえでチームとしてのコラボレーションは必要なので、引き続き行っていきたいです。

増本朱華さん

スクリーンショット 2020-10-26 午後10.45.30
アメリカ音声言語聴覚学会認定 スピーチパソロジスト
増本朱華(ますもとあやか)

増本朱華さん: 私は、鈴木美乃里さんがまとめた記事を、外国人にとってのレベル感で分かりやすくなるように、初級日本語文法を用いたり、文章を短くしたりして、書き換え、編集しています。

やさしい言葉にすることも大事ですが、必ずしもそれをすればいい訳ではありません。たとえば専門用語がある場面では、その名前を使えないとコミュニケーションを取りづらいです。泌尿器科での診察が必要な場合は、泌尿器科を「こういう科ですよ」と説明したところで、その科にたどり着けなかったら意味がない。なので、やさしく言い換えるだけでなく、その名前を覚えてもらう説明の形も必要になってきます。

漢字のルビの打ち方も工夫が必要で、「ざい・りゅう・し・かく」なのか「ざいりゅうしかく」なのか「ざいりゅう・しかく」なのか…。一番よいのは、熟語ごとのまとまりにするのがよいと言われています。これがひとつの言葉と分かるように。そうすると辞書で調べやすくなったりもします。長い言葉になったときにどこで区切るかも、同じように気をつけています。

私はアメリカに15年住んでいた経験があって、英語ができる自分でも、医療につながりたい場合や何か質問がある場合に、誰に聞いたらよいのか分からなかったりしました。そのため、日本でも、外国にルーツがある方が医療や必要な情報につながるハードルを下げるために、やさしい日本語の情報を発信していきたいと思っています。

益田充さん

外科医・救急医・精神科医
益田充(ますだみつる)

益田充さん: 私は医者として、とどプロの記事を医療従事者の視点で監修しています。医療現場でも、日本語が分からない外国籍や外国にルーツを持つ患者に医療通訳がつくことがありますが、医療通訳者はただ通訳をするだけではなく、難解な日本語を簡単な英語や日本語、患者の母国語に変換する必要があります。

しかし、医療機関などではまだ十分にやさしい日本語の普及が進んでおらず、医療通訳者が、患者が理解できる日本語を理解していないケースがあります。たとえば「尿路結石があるので、次回泌尿器科に行ってください」と伝えても、だいたいの場合「泌尿器科」という単語が分からない。医療機関は説明したつもりでも、伝わってないんです。相手になんとなく話が通じているようであれば、スルーされることも多々あります。

伝わってないということがほとんどの医療者には自覚がないことが多いんですね。ニーズがないというよりかは、ニーズを自覚してないことがほとんどなので、逆に言ったらニーズを自覚さえすれば、みんなで学んでいけることだと思うんです。そこで、やさしい日本語の記事を通して、やさしい日本語のひとつのあり方を医療通訳者に伝えていきたいと考えています。

「やさしい日本語」チームのこれからの展望について

鈴木美乃里さん: やさしい日本語という手段を使って、誰がどういう情報を求めているのかということに、シビアに向き合っていきたいと考えています。そこに関心がある方とは、とどプロの中でつながっていきたいですし、中長期的にはとどプロにかかわらず多くの人を巻き込みながらやっていきたいです。

増本朱華さん: 外国にルーツがある方の支援やマイノリティ支援で大事なのは、想像力だと思います。何に困っているのだろう、何が必要だろうと想像するステップが大事です。やさしい日本語の記事作りを通じて、この記事がたくさんの人の目に触れることで、これを自分がやると大変だなとか、近所の方を思い浮かべながら大丈夫かなと想像するような、そういった機会作りになればと思っています。

益田充さん: 医学生のときにタイの病院で働いていたときのエピソードですが、意識不明で運ばれたタイ人と日本人のカップルがいまして、日本人がタイの先生の言っていることが分からなかったのですね。それを僕が英語で聞いて日本人の方にお伝えしたら、とても感謝されて、「きみは名医だ!」と言われて…、診察をした先生ではなく、僕に賛辞が来たわけです。これで、「伝わってこその医療」だと実感しました。これは日本にいると体験できないことかもしれませんし、日本の医療者は医療機関以外の接点が少ないので、余計に気づきにくい状態だと思います。

ですが、私はとどプロの中でも、こういう世界があるのかと気づかされることが多くあります。ぜひ、私を通じてでも構いませんので、「私の業界からみると医療の人ってこう見えるんだよ」っていうのをいろいろとフィードバックをいただきたいと思っています。日本の医療のためによろしくお願いします。